ドル12年ぶりの100円割れ:識者はこうみる

[東京 13日 ロイター] 13日夕方の外為市場でドル/円が一時99.77円まで下落。12年4カ月ぶりに100円を割り込んだ。サブプライムモーゲージ(信用度の低い借り手向け住宅融資)問題を背景に、海外金融機関の経営悪化や米景気後退に対する懸念が高まり、ドル安が進んでいる。
 以下は識者の見方。
 <クレディ・スイス証券 経済調査部 ヴァイスプレジデント 小笠原悟氏>
 ドル/円が、2005年から既に始まっていた他の主要通貨の上昇にキャッチ・アップするとすれば、97円を目指すだろう。ただ、市場はオーバーシュートするものであり、90円台前半もあると思っている。
 米連邦準備理事会(FRB)は中央銀行として、クレジットクランチを回避すべく動いているが、米国政府が金融システムの安定化に本腰を入れて乗り出さない限り、金融市場は安定を回復しないだろう。つまり、インソルベントに近い金融機関に対して、公的資金を注入しなければならない。
 市場は、ヘッジファンドモノライン住宅金融専門会社の倒産が今後も続くという、最悪のシナリオを想定している。
 市場の一部には、米国がドルの暴落を容認しているとの見方もあるが、赤字が自動的にファイナンスされるという基軸通貨のメリットを手放すとは思えない。
 <JPモルガン・チェース銀行 チーフFXストラテジスト 佐々木融氏>
 目先のドル/円のターゲットは98円。3月末までに達成するとみている。ここまでの流れはドル主導のドル安地合いだが、クロス円が下げ始めると、円高の流れが加速し、ドル/円の下げは98円で止まらないだろう。ユーロ/円が150円を割れるようなら、パニック的な動きになるかもしれない。信用リスク懸念は収束の気配がない。来週には米系証券の決算発表も予定されている。円キャリートレードを解消する形での円買い余地はまだあるだろう。ドルが98円を割れるリスクは高まっている。
 政府・日銀の介入はないとみている。ユーロ/ドルが大きく上昇する中、ドル/円だけの介入はできない。
 <野村証券 金融経済研究所シニアエコノミスト 植野大作氏>
 1ドル=100円という心理的な壁を破ったドル/円相場で勢いがつけば、どこまで下落するかを合理的に予想するのは難しい。99円台でとまるのか、98―95円付近まで下落するのかは、短期的に見通しづらい。
 現在の環境では、日本の単独介入は非常にやりにくい。やるとしても米国との協調が必要だが、ポールソン米財務長官の発言履歴を見ていると、なかなかすぐに乗ってくる感じはしない。仮に単独で介入をしても効果が薄いだろう。米国が政策金利を引き下げている最中にドル買い介入をしても、日本が政策金利を引き下げていないのに円売り介入をしても、値動きはあまり期待できない。金融政策との整合性が取れないという面もあり、ドル/円での介入はすぐには難しそうだ。
 <モルガンスタンレー証券 ストラテジスト 神山直樹氏>
 20─30年という長期的なスパンでみれば為替と日本の株価の相関関係はほとんどない。円高のときに内需が強ければ株高になる。80年代後半のバブル時直前に、円高に対応して金利を下げた結果、内需が刺激され株高になった。日本経済に「世界の機関車」としての期待が強まった時期だが、良い円高のパターンといえよう。
 これに対して現在は悪い円高だ。日本の内需が低位安定しているときに外需が弱まり、円高が進んでいる。輸出に頼っている経済状態のなかであるにもかかわらず、外国が日本の製品を買ってくれない。輸出数量だけでなく円高によって価格競争力が低下するというダブルパンチに日本の輸出企業は見舞われている。ここ2年間ほど米株に対して日本株がアンダーパフォームしてきたのは、こうした要因もあろう。
 円高というよりもドル安が進んでいるのは米連邦準備理事会(FRB)の政策金利引き下げ期待が強まっているからであり、フェデラルファンド(FF)金利が2.00%程度まで低下するとの予想が強まるなかでは、一時的とはいえ1ドル=97円程度まで円高が進む可能性があるとみている。
 しかし一方で、金利の低下によって米経済が回復していくと想定すれば年末にかけて105円程度まで円安方向に戻る可能性が大きい。日経平均の1万2500円はバリュエーション的に、2008年度企業業績のかなりの減益を織り込んだ水準だ。1万2000円割れがあったとしても一時的で長期間は続かないとみている。
 <みずほコーポレート銀行 国際為替部シニアマーケットエコノミスト 福井真樹氏>
 ドル/円はパニック的な売りにさらされており、今月中に95円まで下落する可能性がある。ただ、更なる政策手段がとられて投資家が落ち着きを取り戻せば105円にむけて反発することもありうるだろう。
 市場では、信用収縮と米景気の先行き不安に起因するドル安が続いている。米連邦準備理事会(FRB)の流動性供給など、たび重なる施策で若干落ち着く場面もあったが、米景気の先行きや金融システムに対する不安は深く残ったままだ。FRB政策金利を現在の3.0%から1.0%まで引き下げる可能性もあり、金利面からもドルの魅力は薄れ、上値は重くなるだろう。
 <三菱UFJ証券 チーフエコノミスト 水野和夫氏>
 米国は今後も政策金利を下げ続けなければならないだろう。最終的にはフェデラルファンド(FF)レートが2%以下になり、ゼロに近い水準まで低下するとみる。
 ドル/円相場の100円というレベルは円キャリートレードが始まった水準で、円キャリートレードの巻き戻しで、また振り出しに戻った感がある。今後は日米金利差縮小、さらに逆転という流れが予想され、ドルキャリートレードが始まる可能性がある。その場合、ドルは80円を目指すだろう。
 米国は目下ドル買い介入に前向きではないと思うが、米国債などの資産価格が下落すれば、重い腰を上げるかもしれない。データで見る限り、昨年の10―12月期は米国に資金が流入しているが、為替相場を見る限り、今年の1―3月期は再び米国から資本が流出していることが推測される。